北風が吹いても
気持ち良く晴れていたけれど,北から吹いてくる風は結構冷たかった。
もう,公園の木々も街路樹たちも,赤や黄色に色濃く纏っていた衣を随分脱ぎ棄てていた。
そんな秋も終わりに近づいたある日の午後,ダーリンと久しぶりのデートだった。
2回目の鬼ごっこの後じゃ「初めて」のデート♪
あの鬼ごっこの最終日。
ダーリンが,うちの抜けたツノを大切に持っていてくれたこと。
そのことが…ううん,そうしてくれたダーリンの強い想いが,うちの心を引き戻してくれた。
今は言葉でなくっても確かに解る,感じてる。
自分が何より大切に想う愛しいこの人は,自分のことを愛しく大切に想ってくれてるって…
あの日から,うちとダーリンの心の距離は前よりずっと近づいた。
相変わらずダーリンの口から優しい言葉を聞くことはないんだけれど。
なんて言うんだろう?お互いが気持ちの温もりを自然に感じられて。
それがとても心地よくて,嬉しくて。
ちょっと顔を見られない時間があっても,今なら平気。
我慢とかじゃなくて,信じていられる…そんな「柔らかで強いもの」が心の中で育ってる。
この日も,そんな気持ちに変わりはなかったけれど,やっぱりデートだもん!
いつもは感じることの少ない,ワクワクした心の高まりは押さえられなかった。
普段ならダーリンの横を飛んで一緒に進むけれど,どうしても腕組んで歩きたい☆
ダーリンの左脇に自分の右腕をくぐらせて,左手は肘のあたりにあてがう。
あれ?いつもなら「人前でベタベタするな〜」って嫌がるのに…?!
少し見上げるようにして顔をのぞき込んだら,ちょっと赤くなって,
「なんじゃい,オレの顔,何かついとるのか?」だって。
うん!大きくて澄んだ瞳と小さくて可愛い鼻,そして皮肉が得意だけれど,
それよりも,うちの心を揺す振ってくれる声が聴ける,その口が…ね。
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行き先は,この秋に話題になっていた外国のアクション映画が見られるシネ・コン。
うちとしては,同じ館内の隣のホールでやってたロマンスものが見たかったんだけど,
ダーリンは「今日はオレの言う通りにしろ」って引かないし。
このあたりの強情さは,前から変わりなし。って言うか,変わるのを期待するのが無理かな?
だけど,以前にやっぱりデートで一緒に見たワケの解んない変な忍者ものとは違って,
それなりに楽しむことが出来た。主人公とヒロインの恋も素敵だったし〜。
ダーリンなんか,もうすっかり夢中でお話の中に入り込んでいるの(笑)
主人公がピンチに陥る場面じゃ,両手を固く握りしめて「ぐぬぬぬ…」て低い声で唸るし,
逆にピンチを切り抜けたシーンは,「うっしゃ!」って小さくガッツポーズ。
隣で様子をうかがってたら映画より面白いくらいだった(^^)
ほんと,ダーリンって子供みたいに無邪気で可愛いところがあるんだから♪
映画館を出る時,「う〜む,男っちゅうもんは,やっぱあれくらいの行動力がないとな〜」って,
ダーリン自分で納得してたけど,ダーリンだってあの主人公に負けてないよ。
ううん!うちにとってはダーリンが誰より一番のヒーローなんだから!!
映画を見た後,商店街をウィンドウショッピングしながら公園の方へ。
途中,「ショーウィンドゥ見るより,女の子を見とった方が楽しいわい」といつものタメ口のダーリン。
んもう,折角いつもより可愛くしてきたつもりなんだから,ちゃんとうちの方を見てよ!
…でも,この日のダーリン,今までとちょっと違ってた。
可愛い子が向こうから来る度に,相変わらず目では追ってるんだけど,それもすれ違う寸前まで。
今までなら,うちの目を誤魔化してその場からいなくなることもあったのに,
この日は女の子を追いかけるようなこともなくて,ずっとうちの傍にいてくれた。
それどころか「なんか,気に入ったもんでも見つかったか?でも,今は買ってやったりできんからな!」って。
…「今」?それって,「これから先もある」ってことだよね,ダーリン♪そう思ってていいでしょ?
公園に着いた。ここはこの辺りでは珍しく,日の入りが結構最後の方まで眺められる,夕陽が綺麗な場所。
その代わり,この日のように風が冷たい日は,直接吹かれたりすると堪える所。
うちは,地球人よりも寒さに強くて,そんなに気にはならないんだけれど。
案の定というか,冷たい風のせいで人影もほとんどなかった。
その分,うちとダーリン,二人だけの空間がそこにできたようで,嬉しかった♪
缶入りの「しるこ」を2本,ダーリンが自販機から買ってきてくれた。
「今日みたいな時には,体の中から温もるコイツがいいんじゃ」なんて蘊蓄をオマケにして。
そう言えば,しのぶや終太郎とも一緒に甘味処に行った時も,しるこは食べてなかったっけ。
地球の味付けって薄いから,甘いって言われても全然判んないので,
歯応えが楽しめる磯辺まきを注文してばかりだったんだ。だから,初めての「味」だよね。
ベンチに座ろうとした時,ダーリンは「オレこっちに座るから,お前左側に来いよ」って言う。
「え,別に構わないけど,どーして?」って訊いても「なんでもいいから」って取り合ってくれない。
ぶー!ここに来て隠し事とまでは考えないけれど,わけぐらい言ってくれてもいいじゃない!
ちょっと機嫌を損ねて,しるこのプルタブを開けて口を付けた時,「背中側」に風が通りすぎていく気配がした。
顔を上げると,すぐ目の前,息がかかりそうなところにダーリンの顔が。ドキリ!
し,しかも半身を捻るように,うちの方へ体を向けていて-----
えっ,ええっ♪こ,これって,もしかして……って,どきどきしてたらダーリンてば,
「お〜お,物好きな葉っぱじゃな〜。お前の髪に降りかかるなんてなー」と笑いながら,
いつの間にか,うちの前髪に落ちてきていた一枚のイチョウの葉を摘み上げるだけ。
なに,それ?!思わせぶりなことしておきながら,髪についた葉に「物好き」なんて!
じゃあ,うちは全然魅力がないって言うの?折角,ダーリンのために可愛くしてきたつもりだったのに…
ちょっと自分が惨めになって,その場を離れようとベンチから立ち上がった時,目に入ったもの---。
ダーリンの右手側…足下やベンチの上,それどころかダーリンの肩にまで舞い落ちている,何枚ものイチョウの葉。
今まで落ちてなかったのに…? !!そうだ,さっき風が吹いた時!えっ,じゃあ,あの時のダーリン…
周りの様子から一瞬の間に自分が気付かなかった出来事を知り,うちは,もう一度ベンチに腰を下ろした。
風が吹いた時,ダーリンはうちに北風が当たらないようにしてくれたんだ!
それに,初めから風が吹いた時のことを考えていてくれたんだ。自分が「風上になる右側」に座るって…
ダーリン,ありがとう…そして,ごめんね。
うちは,ダーリンの心遣いに気付かなかったどころか,それに腹を立ててしまった自分が情けなかった。
だけど,そんな暗い心は,もうどこかに押しやることにした。だって,こんなにもさり気なく,
自分を大切に優しくしてくれている最愛の人の心に触れて,言いようがないくらい嬉しかったから。
冷たい北風なんて感じない。あなたの温もりがしっかり伝わってきたもの。
(キスしてくれなかったのは,ちょっぴり残念だったけれどね☆)
「ん,もう帰るのか?」先にベンチを立ったうちを見て,立とうとするダーリン。
うちは,押し留めるようにダーリンの左腕に手を回した。こうやるのは,この日3回目かな。
それから小首を傾げるように愛する人の肩に自分の頬を当てて,こう続けた。
「もうちょっと,このままでいたいっちゃ…♪」
彼の肩の上でうっとりと閉じていく目に,西の空にもうすぐ暮れようとしている陽の光が美しかった…
ふは〜っ,こんなに甘い内容を文で綴ったのって,
学生時代にオリジナル曲を創っていた時以来です(*^_^*)
(つまり,中身が全然進歩していないって証拠?)
しかも,完全にラムの視点からの話(爆)
いい歳扱いたオッちゃんが書いたということをもろともせず,
最後まで読んでくださった方,本当にありがとうございます♪
こちらの「小説もどき」も,イラストと一緒にももろんさんにお届けしました。
実のところ,ここの「挿絵」のイメージの方がイラストよりも先に浮かんだのです。
が,一枚絵としては何処か弱いなと感じ,その少し前にあった出来事を考えてみて,
降りてきたのが先のイラストのシーンというワケなのです。
あとは,2つの絵の「間」や「それ以前」に関する妄想がムクムクと広がっていき,
自分としてはかなり短時間で書き上げることが出来ました☆
でも,「2度目の鬼ごっこ」の後としては,ラムがちょっと(かなり?)幼いかな…(^^;)
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