お月さまとパパ

作:yuri  挿絵:平氏源太   



もう、おそとは、ずいぶん暗くなってしまいました。お空には、もうすぐまん丸になる
お月さまが登っています。
ようちえんの大きい組になって、新しくできたお友だちのお家に遊びに行った真優香ちゃん。
大好きなお友だちといっぱい遊んでいるうちに、そして、ママたちのおしゃべりが楽しくとぎれないうちに、すっかりお帰りが遅くなってしまいました。

「ママ、見て! お月さま!」
自転車の前かごのイスに座って、真優香ちゃんが言いました。
「ホント。きれいだっちゃねぇ」

「ママ。お月さま、ずっとウチについて来るっちゃ!」
自転車から見る、まわりのお家や町や木や花は、流れていくようなのに、お月さまだけは、ずっと真優香ちゃんのことを、追いかけてきます。

「真優香はお月さまが好き?」
「うん。大好き!」
「きっと、お月さまも真優香が大好きなんだっちゃ。だから、ずっと側にいて、真優香を守ってくれてるんだっちゃ!」

ママのことばに、真優香ちゃんはすっかりうれしくなりました。

「・・・お月さまってパパみたい。」

ずっと側にいて、守ってくれるパパみたい。
真優香ちゃんは、今年のせつぶんの日を思い出しました。


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まだ、もう一つ小さな組だった2月です。
ようちえんでは「せつぶんの日」だというので、先生がオニの絵をみんなでかきましょうと言いました。
「せつぶんの日」には、みんなでオニにむかって「まめまき」をするのだそうです。

「真優香ちゃんってオニ?」
同じクラスの(真優香ちゃんは、ちょっと苦手な)女の子が急に、真優香ちゃんのツノをさわって言いました。
「ち、ちがうっちゃ!」
とつぜんツノをさわられて、ビックリしながら真優香ちゃんは答えました。
何人かの男の子たちはいすから立って、ボクもボクもとツノをさわろうとしてきます。
すぐに先生にしかられてしまいましたけど。

なんだかクラスのみんなが、真優香ちゃんのツノを見ているように思えて、悲しくなります。
真優香ちゃんはオニの絵がかけませんでした。
先生は「真優香ちゃんはオニではありません」と言ってくれたけど、「せつぶんの日」がくるのが、真優香ちゃんはイヤでしかたありません。

お家に帰ってママを見ると、やっぱりママにはツノがあります。
だけどパパにはありません。
パパといっしょにおふろに入ったとき「パパはオニじゃないね・・・」と、言うつもりじゃなかったのに言ってしまって、真優香ちゃんは、よけいに悲しくなりました。


それでも「せつぶんの日」はやってきてしまいました。
朝はおなかが痛くなって、本当はようちえんをお休みしたかったけど、おなかが痛いと言って、パパやママが悲しむのはもっと悲しいので、お休みはできませんでした。

朝の自由遊びの時間もあっという間に終わってしまって、もうすぐ「まめまき」がはじまります。
お友達たちは、みんなお庭に出てきました・・・


すると急に、空から大きなエンジンの音が聞こえてきました。
「久しぶりだなぁ!真優香!」
ママのお友達の、お空を飛ぶ赤いバイクに乗った弁天さまです!
「こ、こんにちは!」
ごあいさつはしたけれど、真優香ちゃんはもうビックリ。

「今年のせつぶんケンカまつりはココでやるって、おまえのとうちゃんに聞いたからなっ! あ?あいつもオニか?」
弁天さまはお豆が入ったすごいてっぽうを、オニのかっこうをした男の先生にむけたので、先生はビックリして、逃げ出してしまいました。

今度は、急にお空が暗くなって、強い風がふいて雪がふってきました。
ふぶきです。
いっしゅんでようちえんのお庭に雪がつもりました。

「おまちなさい弁天。 小さな子どもたちの前で、そんな危ないものふり回してはいけないわ。」
「お雪さん!」
真優香ちゃんはまたびっくり。弁天さまもお雪さんも、ママの仲良しのお友だちです。
でも、どうしてようちえんに?

「だっちゃ! 今年のせつぶんケンカまつりは、こいつで戦うっちゃ!」
いつのまにかママが来ていました。
真優香ちゃんの知ってるトラのビキニとはちょっとちがう、なんだかいつもよりもっと、かっこいいママです。

ママは「こいつで」と言ったが早いか、弁天さまの顔に雪玉を投げつけました。
だけど弁天さまはひょいとかわして、代わりに後ろにいた園長先生の顔に雪玉があたりました。
「わかったぜっ!おもしれぇっ!!」
今度は弁天さまが、雪玉を投げてきます。

「弁天さまー!お久しぶりっっ!!お雪さんも会えてうれしいな〜っ!!」
パパです!
弁天さまとお雪さんの二人に抱きつこうとしたパパは、
「子どもの前でなにをするっ!!」と、ママと弁天さまにしかられて、二人からたくさん雪玉を投げつけられています。

「やめなさ〜い!!!」
園長先生はさけんだけど、あっちにこっちにとんだ雪玉は、ようちえんのお友だちにも当たって、当たったみんなも、当たってないみんなも、自分で雪玉を作って投げはじめました。

「なにボ〜ッとしてやんでぇ真優香!!」
なにか起こってるのか分からず立ちすくんでいた真優香ちゃんに、弁天さまが雪玉を投げてきました。
もう少しで当たりそうになったとき、パパがひょいと、真優香ちゃんをかたぐるましてくれました。

その時とってもビックリしたの!
だって、パパもツノをつけていたんだもん!!

真優香ちゃんはすっかりうれしくなって、パパのかたの上からいっぱい雪玉を投げました。
ようちえんのお友だちみんなも、楽しそうにいっぱい雪玉を作っては投げています。
自分でかいたオニのおめんをかぶっている子もいます。
真優香ちゃんのツノをさわったお友だちも、楽しそうに笑って、雪玉を投げています。

パパもママも弁天さんも、ようちえんのお友だちもみんな!みんな!みんな!!
オニもフクのカミもいっしょに!
「せつぶんの日」はいつのまにか「大雪合戦」になりました。

お雪さんは、大きなかまくらの中で、ひなんしてきた先生たちと笑ってお茶をのんでいます。

真優香ちゃんは「せつぶんの日」が大好きになりました。


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夕方の風がほおに当たって、とっても気持ちが良くって。
「せつぶんの日」の思い出が、とっても幸せで。
真優香ちゃんはお月さまを見ながら、ニコニコ笑っていました。

「パパはお月さまみたいに、いつも真優香を守ってくれるっちゃ」

するとなんだか、お月さままで、ニコニコ笑っているみたいに見えます。
真優香ちゃんがニコニコ。
お月さまもニコニコ。

「それにね。パパはお月さまよりも、ずっとずっと遠くまで、ママを助けに来てくれたっちゃよ。パパはいつでも・・・」

自転車をこぎながらそう言ったママの声は、どこからかくるジャスミンの香りより甘ずっぱく聞こえました。

ふり返った真優香ちゃんが見たママの顔は、お月さまの光に照らされたから?
いつもよりもっともっとキレイに見えました。


もうお家が見えました。お月さまはお家まで、ちゃんとついて来てくれたんです。
「パパ、早く帰ってこないかな」」



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