お月さまとパパ
作:yuri 挿絵:平氏源太 もう、おそとは、ずいぶん暗くなってしまいました。お空には、もうすぐまん丸になる お月さまが登っています。 ようちえんの大きい組になって、新しくできたお友だちのお家に遊びに行った真優香ちゃん。 大好きなお友だちといっぱい遊んでいるうちに、そして、ママたちのおしゃべりが楽しくとぎれないうちに、すっかりお帰りが遅くなってしまいました。 「ママ、見て! お月さま!」 自転車の前かごのイスに座って、真優香ちゃんが言いました。 「ホント。きれいだっちゃねぇ」 「ママ。お月さま、ずっとウチについて来るっちゃ!」 自転車から見る、まわりのお家や町や木や花は、流れていくようなのに、お月さまだけは、ずっと真優香ちゃんのことを、追いかけてきます。 「真優香はお月さまが好き?」 「うん。大好き!」 「きっと、お月さまも真優香が大好きなんだっちゃ。だから、ずっと側にいて、真優香を守ってくれてるんだっちゃ!」 ママのことばに、真優香ちゃんはすっかりうれしくなりました。 「・・・お月さまってパパみたい。」 ずっと側にいて、守ってくれるパパみたい。 真優香ちゃんは、今年のせつぶんの日を思い出しました。 ************************************* まだ、もう一つ小さな組だった2月です。 ようちえんでは「せつぶんの日」だというので、先生がオニの絵をみんなでかきましょうと言いました。 「せつぶんの日」には、みんなでオニにむかって「まめまき」をするのだそうです。 「真優香ちゃんってオニ?」 同じクラスの(真優香ちゃんは、ちょっと苦手な)女の子が急に、真優香ちゃんのツノをさわって言いました。 「ち、ちがうっちゃ!」 とつぜんツノをさわられて、ビックリしながら真優香ちゃんは答えました。 何人かの男の子たちはいすから立って、ボクもボクもとツノをさわろうとしてきます。 すぐに先生にしかられてしまいましたけど。 なんだかクラスのみんなが、真優香ちゃんのツノを見ているように思えて、悲しくなります。 真優香ちゃんはオニの絵がかけませんでした。 先生は「真優香ちゃんはオニではありません」と言ってくれたけど、「せつぶんの日」がくるのが、真優香ちゃんはイヤでしかたありません。 お家に帰ってママを見ると、やっぱりママにはツノがあります。 だけどパパにはありません。 パパといっしょにおふろに入ったとき「パパはオニじゃないね・・・」と、言うつもりじゃなかったのに言ってしまって、真優香ちゃんは、よけいに悲しくなりました。 それでも「せつぶんの日」はやってきてしまいました。 朝はおなかが痛くなって、本当はようちえんをお休みしたかったけど、おなかが痛いと言って、パパやママが悲しむのはもっと悲しいので、お休みはできませんでした。 朝の自由遊びの時間もあっという間に終わってしまって、もうすぐ「まめまき」がはじまります。 お友達たちは、みんなお庭に出てきました・・・ すると急に、空から大きなエンジンの音が聞こえてきました。 「久しぶりだなぁ!真優香!」 ママのお友達の、お空を飛ぶ赤いバイクに乗った弁天さまです! 「こ、こんにちは!」 ごあいさつはしたけれど、真優香ちゃんはもうビックリ。 「今年のせつぶんケンカまつりはココでやるって、おまえのとうちゃんに聞いたからなっ! あ?あいつもオニか?」 弁天さまはお豆が入ったすごいてっぽうを、オニのかっこうをした男の先生にむけたので、先生はビックリして、逃げ出してしまいました。 今度は、急にお空が暗くなって、強い風がふいて雪がふってきました。 ふぶきです。 いっしゅんでようちえんのお庭に雪がつもりました。 「おまちなさい弁天。 小さな子どもたちの前で、そんな危ないものふり回してはいけないわ。」 「お雪さん!」 真優香ちゃんはまたびっくり。弁天さまもお雪さんも、ママの仲良しのお友だちです。 でも、どうしてようちえんに? 「だっちゃ! 今年のせつぶんケンカまつりは、こいつで戦うっちゃ!」 いつのまにかママが来ていました。 真優香ちゃんの知ってるトラのビキニとはちょっとちがう、なんだかいつもよりもっと、かっこいいママです。 ママは「こいつで」と言ったが早いか、弁天さまの顔に雪玉を投げつけました。 だけど弁天さまはひょいとかわして、代わりに後ろにいた園長先生の顔に雪玉があたりました。 「わかったぜっ!おもしれぇっ!!」 今度は弁天さまが、雪玉を投げてきます。 「弁天さまー!お久しぶりっっ!!お雪さんも会えてうれしいな〜っ!!」 パパです! 弁天さまとお雪さんの二人に抱きつこうとしたパパは、 「子どもの前でなにをするっ!!」と、ママと弁天さまにしかられて、二人からたくさん雪玉を投げつけられています。 「やめなさ〜い!!!」 園長先生はさけんだけど、あっちにこっちにとんだ雪玉は、ようちえんのお友だちにも当たって、当たったみんなも、当たってないみんなも、自分で雪玉を作って投げはじめました。 「なにボ〜ッとしてやんでぇ真優香!!」 なにか起こってるのか分からず立ちすくんでいた真優香ちゃんに、弁天さまが雪玉を投げてきました。 もう少しで当たりそうになったとき、パパがひょいと、真優香ちゃんをかたぐるましてくれました。 その時とってもビックリしたの! だって、パパもツノをつけていたんだもん!! 真優香ちゃんはすっかりうれしくなって、パパのかたの上からいっぱい雪玉を投げました。 ようちえんのお友だちみんなも、楽しそうにいっぱい雪玉を作っては投げています。 自分でかいたオニのおめんをかぶっている子もいます。 真優香ちゃんのツノをさわったお友だちも、楽しそうに笑って、雪玉を投げています。 パパもママも弁天さんも、ようちえんのお友だちもみんな!みんな!みんな!! オニもフクのカミもいっしょに! 「せつぶんの日」はいつのまにか「大雪合戦」になりました。 お雪さんは、大きなかまくらの中で、ひなんしてきた先生たちと笑ってお茶をのんでいます。 真優香ちゃんは「せつぶんの日」が大好きになりました。 ************************************ ![]() 夕方の風がほおに当たって、とっても気持ちが良くって。 「せつぶんの日」の思い出が、とっても幸せで。 真優香ちゃんはお月さまを見ながら、ニコニコ笑っていました。 「パパはお月さまみたいに、いつも真優香を守ってくれるっちゃ」 するとなんだか、お月さままで、ニコニコ笑っているみたいに見えます。 真優香ちゃんがニコニコ。 お月さまもニコニコ。 「それにね。パパはお月さまよりも、ずっとずっと遠くまで、ママを助けに来てくれたっちゃよ。パパはいつでも・・・」 自転車をこぎながらそう言ったママの声は、どこからかくるジャスミンの香りより甘ずっぱく聞こえました。 ふり返った真優香ちゃんが見たママの顔は、お月さまの光に照らされたから? いつもよりもっともっとキレイに見えました。 もうお家が見えました。お月さまはお家まで、ちゃんとついて来てくれたんです。 「パパ、早く帰ってこないかな」」 |
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